福岡県の最低賃金は2026年いくらになる?引き上げ57円の影響と会社の人件費増を税理士が試算

監修 税理士 有馬 誠治

時給1,057円——。2025年度の福岡県の最低賃金は、過去最大となる65円(6.6%)の引き上げとなりました。そして2026年度も57円の引き上げが行われ、1,114円となる見込みです。

最低賃金の引き上げは、時給で働くパート・アルバイトだけの話ではありません。給与に上乗せされる社会保険料の会社負担分まで含めると、会社の人件費は時給の引き上げ幅以上に増えていきます。しかも政府は「全国平均1,500円」という目標を掲げており、この流れは今後数年間続く見通しです。

この記事では、福岡県の最低賃金が2026年度にいくらになるのか、過去10年の推移、政権交代で変わった政府方針、そして時給57円の引き上げで会社の人件費が年間いくら増えるのかを、税理士が具体的な数字で試算します。

 

目次

福岡県の最低賃金は2026年(令和8年度)いくらになる?

現在(2025年度)の福岡県の最低賃金は時給1,057円です。2025年度は全国的にも記録的な引き上げの年となり、全国加重平均で前年度比+6.3%、初めてすべての都道府県で1,000円を超えました(出典:2026年版中小企業白書)。福岡県も992円から65円引き上げられ、初の1,000円台に乗っています。

2026年度については、国の審議会が示した引き上げの目安56円に対し、福岡地方最低賃金審議会の審議を経て、目安を上回る57円の引き上げとなる見込みです。つまり、福岡県の最低賃金は1,057円+57円=1,114円となり、2年連続で過去最高水準の引き上げが続くことになります。

例年のスケジュールでは、夏に国の審議会が引き上げの目安を示し、それを受けて福岡地方最低賃金審議会が福岡県の金額を審議・答申、10月頃に新しい最低賃金が発効します。つまり、この記事をお読みの経営者の皆様にとって、新しい時給への対応まで残された時間はわずかです。

2026年度の福岡県最低賃金(見込み)
現在1,057円 + 57円 = 1,114円(10月頃発効見込み)
※金額は答申・官報公示を経て正式に確定します。確定額・発効日は厚生労働省・福岡労働局の公表をご確認ください。

 

福岡県の最低賃金の推移|過去10年でどれだけ上がったか

「最近、最低賃金の上がり方が急になった」と感じている経営者の方は多いのではないでしょうか。実際に過去10年の福岡県の最低賃金を並べると、その変化は一目瞭然です。

福岡県の最低賃金の推移(過去10年)
年度最低賃金(時給)引き上げ額引き上げ率
2016年度765円+22円3.0%
2017年度789円+24円3.1%
2018年度814円+25円3.2%
2019年度841円+27円3.3%
2020年度842円+1円0.1%(コロナ禍)
2021年度870円+28円3.3%
2022年度900円+30円3.4%
2023年度941円+41円4.6%
2024年度992円+51円5.4%
2025年度1,057円+65円6.6%

*スライドすることで表の全てが読めます。

※出典:厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(各年度)をもとに作成。公開前に最新の公表値をご確認ください。

この10年間で福岡県の最低賃金は765円から1,057円へ、292円(約1.4倍)上がりました。注目すべきはそのペースです。2010年代は「年20円台・3%前後」の引き上げが標準でしたが、2023年度以降は41円→51円→65円と加速し、引き上げ率も4%台から6%台へ跳ね上がっています。

時給900円の頃に採用したパート従業員の時給が、いまでは最低賃金を下回っている——そんな「気づかないうちの最低賃金割れ」が起きやすいのが、まさに今の局面です。

最低賃金1,500円はいつ?政権交代で変わった政府方針

最低賃金の引き上げが加速している背景には、政府の「全国平均1,500円」という目標があります。ただし、その達成時期は政権交代によって修正されました。2つの閣議決定を比べてみましょう。

■ 石破政権:「2020年代に全国平均1,500円」(骨太の方針2025)

石破内閣が2025年6月13日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針2025)」では、「賃上げこそが成長戦略の要」と位置づけたうえで、「最低賃金を着実に引き上げ、2020年代に全国平均1,500円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続ける」と明記されました。2020年代のうち、つまり2029年度までに1,500円へ到達させるには、毎年7%台という極めて高いペースの引き上げが必要になる計算でした。

■ 高市政権:「遅くとも2030年代前半に達成」へ修正(骨太の方針2026)

一方、高市内閣が2026年7月21日に閣議決定した「骨太の方針2026」では、1,500円目標自体は維持しつつ、「遅くとも2030年代前半のできる限り早期に全国平均1,500円を達成する」と、達成時期が事実上後ろ倒しに修正されました。あわせて、毎年の引き上げ額は法定3要素(労働者の生計費・賃金、企業の支払能力)のデータに基づき、審議会で実態を踏まえて審議決定すること、地域間格差の是正を図ることも盛り込まれています。

では、この政府目標のペースで福岡県の最低賃金(2025年度1,057円)が上がり続けた場合、フルタイム従業員1人(月160時間勤務)を最低賃金で雇用する会社の人件費はどうなるのでしょうか。当初案と修正後のペースで試算しました。

【試算①】当初案ペース(年7.25%引き上げ・2030年に1,500円)の場合
最低賃金月額(×160時間)年間(×12か月)会社負担トータル(40歳以上)会社負担トータル(40歳未満)
20251,057円169,120円2,029,440円
20261,134円181,440円2,177,280円2,539,579円2,521,943円
20271,216円194,560円2,334,720円2,723,217円2,704,306円
20281,304円208,640円2,503,680円2,920,292円2,900,013円
20291,399円223,840円2,686,080円3,133,044円3,111,286円
20301,500円240,000円2,880,000円3,359,232円3,335,904円

*スライドすることで表の全てが読めます。

 

【試算②】政府2026年修正案ペース(年5.4%引き上げ)の場合
最低賃金月額(×160時間)年間(×12か月)会社負担トータル(40歳以上)会社負担トータル(40歳未満)
20261,114円178,240円2,138,880円2,494,790円2,477,465円
20271,174円187,840円2,254,080円2,629,159円2,610,901円
20281,238円198,080円2,376,960円2,772,486円2,753,233円
20291,304円208,640円2,503,680円2,920,292円2,900,013円
20301,375円220,000円2,640,000円3,079,296円3,057,912円
20311,449円231,840円2,782,080円3,245,018円3,222,483円
20321,527円244,320円2,931,840円3,419,698円3,395,950円
20331,610円257,600円3,091,200円3,605,576円3,580,537円

*スライドすることで表の全てが読めます。

 

【試算③】参考:均等ペース(年4.475%引き上げ・2033年に1,500円)の場合
最低賃金月額(×160時間)年間(×12か月)会社負担トータル(社会保険料込み)
20261,104円176,640円2,119,680円2,472,395円
20271,154円184,640円2,215,680円2,584,369円
20281,205円192,800円2,313,600円2,698,583円
20291,259円201,440円2,417,280円2,819,515円
20301,316円210,560円2,526,720円2,947,166円
20311,375円220,000円2,640,000円3,079,296円
20321,436円229,760円2,757,120円3,215,905円
20331,500円240,000円2,880,000円3,359,232円

*スライドすることで表の全てが読めます。

※会社負担トータル=年間給与+社会保険料の会社負担分。月160時間勤務のフルタイム従業員1人あたりの試算です。※上記はシミュレーションであり、実際の最低賃金額・引き上げ率は毎年度の審議会の決定により異なります。

試算に用いた社会保険料(会社負担分)の内訳は次のとおりです。

社会保険料の会社負担率(試算の前提)
健康保険5.055% 
厚生年金9.15% 
介護保険0.81%40歳以上のみ
子ども・子育て支援金0.115% 
雇用保険0.85% 
労災保険0.3% 
子ども・子育て拠出金0.36% 
合計16.64%40歳未満は15.83%

*スライドすることで表の全てが読めます。

※料率は試算時点の一般的な水準にもとづくものです。健康保険料率は加入する保険者・都道府県により、労災保険料率は業種により異なります。

【試算】時給57円の引き上げで会社の人件費は年間いくら増えるのか

それでは、目前に迫った2026年度の「時給57円引き上げ」に絞って、会社の人件費への影響を試算してみましょう。月160時間勤務のフルタイム従業員1人あたりで計算します。

時給57円引き上げによる人件費増(フルタイム従業員1人あたり)
時給の引き上げ額57円
月間の給与増(57円×160時間)9,120円
年間の給与増(9,120円×12か月)109,440円
社会保険料の会社負担増(16.64%)約18,000円
会社負担の増加額合計(1人あたり・年間)約128,000円

*スライドすることで表の全てが読めます。

※40歳以上の従業員(介護保険あり)の場合。40歳未満の場合は約127,000円です。※上記はシミュレーションであり、実際の負担増は勤務時間・加入している社会保険により異なります。

つまり、時給57円の引き上げは、社会保険料まで含めるとフルタイム従業員1人あたり年間約12.8万円の負担増を意味します。最低賃金近辺の時給で働く従業員が10人いれば、それだけで年間約128万円。月160時間に満たないパート・アルバイトの方は勤務時間に応じた比例計算になりますが、人数が多い業種ほど影響は膨らみます。

さらに見落とせないのが「賃金バランス」の問題です。最低賃金ぎりぎりの従業員だけ時給を上げると、以前から少し高い時給で働いてきた中堅従業員との差が縮まり、不公平感が生まれます。実務では、最低賃金の引き上げをきっかけに賃金表全体を底上げするケースが多く、実際の人件費増は上記の試算を上回ることも珍しくありません。

ここがポイント
時給57円の引き上げ=1人あたり年間約12.8万円の会社負担増(社会保険料込み)。最低賃金対象者だけでなく、賃金バランス維持のための全体的な底上げまで含めて影響を見積もることが大切です。

 

人件費増にどう備えるか|中小企業が取るべき対策

2026年版中小企業白書によれば、中小企業の労働分配率(付加価値額に占める人件費の割合)はすでに8割近い水準にあり、大企業に比べて賃上げの余力は厳しい状況です。つまり「利益を削って賃上げに耐える」やり方は、遠からず限界が来ます。必要なのは、賃上げの原資そのものを生み出す取り組みです。白書の分析も踏まえ、4つの対策を紹介します。

■ 対策① 原価管理を徹底し、価格転嫁を進める

同白書では、コスト上昇分を販売価格に転嫁できた企業とできない企業の二極化が続いていること、そして原価を適切に把握している事業者ほど価格転嫁に成功している傾向が示されています。「どの商品・サービスに、いくらコストがかかっているか」を数字で示せることが、取引先との価格交渉の出発点です。最低賃金の引き上げは、地域全体・取引先も同じ条件で起こるコスト上昇ですから、価格転嫁を切り出す合理的な理由になります。

■ 対策② 省力化投資・デジタル化で生産性を高める

白書が「現状維持は最大のリスク」と指摘するとおり、人手のかかる業務を放置したままでは、上がり続ける人件費に収益が追いつきません。省力化投資やデジタル化により従業員1人あたりの付加価値額を高めることが、持続的な賃上げの土台になります。付加価値額を増やしている中小企業は、価格転嫁や成長投資に積極的に取り組んでいる傾向があることも白書のデータで示されています。

■ 対策③ 助成金・補助金を活用する

最低賃金の引き上げに合わせて事業場内の最低賃金を引き上げ、設備投資等を行う中小企業を支援する助成金(業務改善助成金など)や、省力化投資を後押しする補助金が用意されています。制度の内容・要件は年度により変わるため、活用を検討する際は最新の公募情報を確認するか、専門家にご相談ください。

■ 対策④ 人件費増を織り込んだ資金繰り・経営計画をつくる

最も重要なのがこの点です。先ほどの試算のとおり、政府目標ペースでは2030年前後〜2030年代前半に最低賃金1,500円となり、フルタイム1人あたりの会社負担は年間約336万円に達します。現在の1,057円時点の会社負担が年間約237万円(給与約203万円+社会保険料16.64%)ですから、1人あたり年間約100万円の増加です。この数字を知らずに採用計画や設備投資を決めるのと、織り込んだうえで決めるのとでは、数年後の資金繰りがまったく変わってきます。

よくある質問(FAQ)|福岡県の最低賃金と会社の実務

最後に、最低賃金について経営者・経理担当者の方からよくいただく質問にお答えします。

Q.2026年度の福岡県の新しい最低賃金は、いつから適用されますか?

A.例年、夏に国の審議会が引き上げの目安を示し、福岡地方最低賃金審議会の審議・答申を経て、10月頃に新しい最低賃金が発効します。2026年度も同様のスケジュールであれば10月頃の適用開始が見込まれます。適用日と確定額は、厚生労働省・福岡労働局の公表を必ずご確認ください。

Q.月給制の正社員にも最低賃金は関係ありますか?

A.関係あります。月給制の場合は、月給(対象となる賃金)を月平均所定労働時間で割って時給に換算し、最低賃金と比較します。最低賃金が1,114円になった場合、月160時間勤務なら月給約17.9万円がボーダーラインの目安です。基本給が長年据え置きの正社員や新卒初任給が、気づかないうちに最低賃金を下回るケースが実際に起きています。

Q.通勤手当や賞与は、最低賃金の計算に含めてよいですか?

A.含められません。最低賃金の対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金で、①通勤手当・家族手当・精皆勤手当、②時間外・休日・深夜の割増賃金、③賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、④結婚手当など臨時に支払われる賃金は、原則として計算から除外されます。手当を厚くして基本給を抑えている会社は、時給換算すると最低賃金割れしていることがあるため注意が必要です。

Q.最低賃金を下回る時給のままにしておくと、どうなりますか?

A.最低賃金を下回る賃金の定めは法律上その部分が無効となり、最低賃金と同額の定めをしたものとみなされます。つまり差額の支払義務が生じ、さかのぼって未払賃金を請求される可能性があります。また、地域別最低賃金を下回る賃金しか支払っていない場合には、最低賃金法により罰金(50万円以下)が科されることもあります。毎年10月の改定時には、全従業員の時給・時給換算額のチェックをおすすめします。

Q.福岡県には、業種によって別の最低賃金もあると聞きました。

A.あります。地域別最低賃金とは別に、鉄鋼業や自動車・電子部品関連など一部の産業には「特定(産業別)最低賃金」が設定されており、地域別最低賃金より高い金額になっています。該当する業種の会社は、地域別ではなく特定最低賃金が優先される場合がありますので、福岡労働局の公表資料でご自身の業種をご確認ください。

Q.派遣社員には、どこの県の最低賃金が適用されますか?

A.派遣元(派遣会社)ではなく、実際に働く派遣先の事業場がある地域の最低賃金が適用されます。福岡県内の会社が県外の派遣会社から派遣を受け入れる場合も、福岡県の最低賃金が基準になります。

Q.時給が上がると、扶養内で働くパート従業員に影響はありますか?

A.あります。時給が上がると同じ労働時間でも年収が増えるため、いわゆる「年収の壁」を意識して勤務時間を抑える動きが起こりやすくなり、結果として現場の人手不足が深刻化することがあります。年収の壁や社会保険の適用要件は近年制度改正が続いている分野ですので、シフト設計や扶養の扱いに迷ったら、最新の制度にもとづいた確認をおすすめします。当事務所でもご相談を承っています。

まとめ|人件費増を織り込んだ資金繰り・経営計画はお早めにご相談を

最後に、この記事のポイントを整理します。

この記事のまとめ
・福岡県の最低賃金は現在1,057円。2026年度は57円の引き上げで1,114円となる見込み(10月頃発効見込み)
・過去10年で292円・約1.4倍に上昇。特に2023年度以降は年41円→51円→65円と引き上げが加速している
・政府目標は「全国平均1,500円」。骨太の方針2026で達成時期は「遅くとも2030年代前半」に修正されたが、引き上げの流れ自体は継続
・時給57円の引き上げで、会社の負担増は社会保険料込みで1人あたり年間約12.8万円。10人なら年間約128万円
・対策の柱は、原価管理にもとづく価格転嫁、省力化投資による生産性向上、助成金の活用、そして人件費増を織り込んだ経営計画

 

最低賃金の引き上げは、もはや一時的なコスト増ではなく、今後数年間続く「構造的な人件費の上昇」です。だからこそ、毎年の決算・資金繰りを最もよく知る税理士と一緒に、数年先までの人件費を織り込んだ経営計画を立てておくことが、何よりの備えになります。

当事務所では、自社の人件費増シミュレーションの作成から、価格転嫁を見据えた原価管理、助成金活用のご相談、資金繰り・経営計画の策定まで、ワンストップでサポートしています。「うちの会社の場合、いくら増えるのか知りたい」という段階でも、お気軽にご相談ください。

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