非上場株式の評価方法が見直しへ|2028年適用見通しと事業承継を急ぐべき理由を税理士が解説

監修 税理士 有馬 誠治

「うちは上場していないから、株価なんて関係ない」——そう思っていないでしょうか。実は、非上場会社の株式にも税務上の「値段」があります。相続や贈与、事業承継の場面では、国税庁のルール(財産評価基本通達)にもとづいて自社株が評価され、その評価額しだいで相続税・贈与税の負担は大きく変わります。

その自社株の評価ルールが、いま見直しに向けて動き始めています。評価の中核である「類似業種比準価額」に関する検索は、この1年で約7.5倍に急増しました。見直しの方向性しだいでは、自社株の評価額=事業承継のコストが今より上がる可能性があり、事業承継を控えた経営者にとって他人事ではありません。

この記事では、非上場株式の評価がなぜ見直されるのか、現行の評価方法と問題点、議論されている新しい評価方法の候補、適用時期の見通し、そして事業承継を検討中の経営者がいま何をすべきかを、税理士がわかりやすく解説します。

 

目次

非上場株式(取引相場のない株式)の評価はなぜ見直されるのか

非上場株式は、上場株式のように市場の取引価格がないため、税務上は「取引相場のない株式」として、財産評価基本通達に定められた方法で評価します。この通達の基本的な枠組みは1964年(昭和39年)につくられたもので、60年以上にわたり、部分的な改正を重ねながら使われてきました。

見直しの背景として指摘されているのは、主に次の3点です。第一に、M&A市場の拡大により、会社が実際に売買される価格と税務上の評価額との乖離が目立つようになったこと。実際のM&Aでは収益力や将来性を織り込んだ価格がつく一方、税務上の評価額はそれを大きく下回るケースがあります。第二に、その乖離を利用した相続税対策への課題意識です。マンションの相続税評価が実勢価格との乖離を理由に2024年から見直されたのと同じ流れが、非上場株式にも及びつつあります。第三に、利益や配当が少なくても高い企業価値を持つ会社(スタートアップ等)の評価が、実態と合いにくくなっていることです。

押さえておきたい前提
2026年8月時点では、見直しは「検討段階」であり、新しい評価方法の内容は確定していません。ただし、実勢価格との乖離の是正という方向性から、評価額が上がる会社が出てくる可能性は十分にあると考えられています。

 

現行の評価方法と問題視されているポイント

まず、現行ルールを簡単に整理しておきましょう。経営に関与する同族株主が相続・贈与で株式を取得する場合、会社の規模に応じて次のように評価します(原則的評価方式)。

現行の評価方式の枠組み(財産評価基本通達)
大会社類似業種比準方式(事業内容が類似する上場企業の株価に、配当・利益・簿価純資産の3要素を比準させて評価)。純資産価額方式との選択も可
中会社類似業種比準方式と純資産価額方式の併用(会社規模に応じた割合で組み合わせ)
小会社純資産価額方式(会社の資産・負債を相続税評価額で評価し直して1株あたりの価値を算定)。併用方式の選択も可
同族株主以外の少数株主配当還元方式(受け取る配当をもとにした簡便な評価。一般に低い評価額になる)

※会社規模の区分は従業員数・総資産・売上高により判定します。上記は概要であり、実際の適用には細かな要件があります。

■ 問題視されているポイント① M&Aの実勢価格との乖離

類似業種比準方式は、配当・利益・簿価純資産という過去の実績数値をもとに計算するため、収益力や将来性を反映したM&Aの取引価格と比べて評価額が低く出やすい構造があります。この乖離が、実態より低い評価額での相続・贈与を可能にしているという指摘です。

■ 問題視されているポイント② 意図的な評価引き下げの余地

役員退職金の支給などで一時的に利益を圧縮すれば比準要素が下がり、評価額を意図的に引き下げられる余地があります。行き過ぎた対策は、これまでも財産評価基本通達の総則6項(著しく不適当な評価の否認規定)で争われてきましたが、ルール自体を実態に合わせるべきだという議論につながっています。

■ 問題視されているポイント③ 比準対象と中小企業の実態のずれ

比準の相手方は上場企業です。規模も市場環境も異なる上場企業の株価に中小企業をなぞらえる手法そのものが、実態を反映しにくくなっているという指摘もあります。

新しい評価方法はどうなる?議論されている候補

新しい評価方法の具体的な内容は、2026年8月時点ではまだ固まっていません。ただし、報道や専門家の間では、次のような方向性が候補として議論されています。

  • M&Aの実例価格や収益力(将来キャッシュフロー)の考え方を評価に反映させる方式
  • 純資産価額の比重を現在より高める方式
  • 類似業種比準方式の3要素(配当・利益・簿価純資産)の構成や計算方法の見直し
  • 持株会社化など、評価引き下げを目的としたスキームへの対応強化

いずれの案も、共通するのは「実勢価格との乖離を縮める」方向だということです。乖離を縮めるということは、多くのケースで評価額が現在より上がる方向に働きます。もちろん、会社の資産構成や収益状況によって影響はまちまちで、ほとんど変わらない会社もあれば、大きく上がる会社もあると考えられます。

経営者にとっての意味
自社株の評価額が上がれば、後継者が負担する相続税・贈与税も増えます。つまり評価方法の見直しは、「事業承継のコストが将来上がるかもしれない」という経営問題です。

 

いつから変わる?改正スケジュールの見通し

見直しのスケジュールについても、現時点で確定したものはありませんが、報道等をもとにすると、おおむね次のような流れが見込まれています。

評価方法見直しのスケジュール(見通し)
2025年末〜2026年評価方法の見直しの検討開始が報じられる。政府・国税庁での議論が本格化
2026〜2027年具体的な評価方法の設計・関係者からの意見聴取・税制改正の議論への反映
2027年頃財産評価基本通達の改正・公表、周知期間
2028年新しい評価方法の適用開始(見通し)

※上記は2026年8月時点の報道等にもとづく見通しであり、今後変わる可能性があります。正式な内容・時期は国税庁の公表をご確認ください。

ここで重要なのは、相続や贈与の税務では、原則としてその時点で有効な評価ルールが適用されるということです。仮に2028年から新ルールが適用されるなら、それより前に行う承継は現行ルールでの評価が基本になります。「いつ動くか」が、承継コストに直結し得る局面だということです。

事業承継を検討中の経営者が今すべきこと

では、事業承継を視野に入れている経営者は、いま何をすべきでしょうか。順番に4つ挙げます。

■ ① まず現行ルールで自社株を評価してみる(現状把握)

すべての出発点は、「いまの自社株がいくらなのか」を知ることです。現行ルールでの評価額がわかれば、相続税・贈与税の概算、納税資金の要否、そして将来ルールが変わった場合の影響を考える土台ができます。決算書と株主構成がわかれば試算できますので、まだ一度も評価したことがない方は、早めの実施をおすすめします。

■ ② 承継の方針と時期を決める——早い承継はデータ上も合理的

2026年版中小企業白書によれば、事業承継やM&Aは企業の付加価値額を高める効果が確認されており、特に若い世代への承継ほどその効果が大きい傾向があります。

事業承継・M&Aの効果(付加価値額の増加率・中央値)
後継者が50歳代以下の企業(10年以内に承継)+18.5%
後継者が60歳代以上の企業(10年以内に承継)+14.9%
M&A(買収)を実施した企業+22.8%
M&A(買収)を実施していない企業+18.5%

※出典:2026年版中小企業白書(中小企業庁)。2019年から2024年の付加価値額の増加率(中央値)。(株)帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」にもとづく。

税負担の面でも経営の面でも、「先代が元気で、後継者が若いうちの承継」が合理的だというデータです。評価方法の見直しは、先送りしてきた承継の時期を決める、よいきっかけになります。

■ ③ 生前贈与・事業承継税制などの選択肢を検討する

承継コストを抑える手段には、暦年贈与や相続時精算課税を使った計画的な株式の移転、そして自社株の相続税・贈与税の納税が猶予される事業承継税制(納税猶予制度)などがあります。特に事業承継税制の特例措置は大きな効果がある一方、適用には事前の計画提出や期限・要件があり、承継後も要件を満たし続ける必要があります。制度の期限・要件は改正で変わることがあるため、検討の際は最新情報の確認が不可欠です。

■ ④ 後継者がいない場合はM&Aも視野に入れる

親族や社内に後継者がいない場合は、M&A(第三者への承継)も有力な選択肢です。白書のデータが示すとおり、M&Aを通じた承継は企業の成長につながるケースが多く、「会社を残す」手段として広く定着しています。自社株の評価は、M&Aの売却価格を考えるうえでも基礎資料になります。

よくある質問(FAQ)|非上場株式の評価と事業承継

最後に、自社株の評価と事業承継について経営者の方からよくいただく質問にお答えします。

Q.自社株の評価額が高いと、具体的にどの税金が増えるのですか?

A.直接影響するのは、株式を後継者に引き継ぐときの相続税・贈与税です。評価額が高いほど課税対象となる財産額が増え、税負担も重くなります。また、株式を親族や役員に売買するときの「適正な価格」の目安にもなるため、評価額を無視した安売り・高買いは、みなし贈与や役員給与の問題など、別の課税リスクを生むことがあります。

Q.自社株の評価は自分で計算できますか?税理士に頼むと何が必要ですか?

A.会社規模の判定や類似業種の業種目選定、資産の相続税評価への引き直しなど専門的な工程が多く、正確な評価を自力で行うのは現実的ではありません。税理士に依頼する場合は、直近の決算書(できれば3期分)と株主名簿、不動産や保険など主な資産の資料があれば試算できます。当事務所でも自社株評価のご相談を承っていますので、まずは決算書をお持ちください。

Q.赤字の会社でも、自社株の評価額が高くなることはありますか?

A.あります。純資産価額方式では会社が持つ資産の価値が評価に直結するため、利益が出ていなくても、含み益のある土地や有価証券、多額の内部留保があれば評価額は高くなります。「赤字だから対策は不要」と思い込んでいた会社が、いざ相続の場面で想定外の税負担に直面するケースは少なくありません。

Q.評価方法が見直されたら、評価額は必ず上がるのですか?

A.必ず上がるとは限りません。見直しの内容は2026年8月時点で確定しておらず、影響は会社の資産構成・収益状況・規模によって異なります。実勢価格との乖離を縮める方向性からは上がる会社が多いと見込まれますが、ほとんど影響のない会社もあり得ます。大切なのは、自社がどちらに該当しそうかを現行ルールでの評価とあわせて把握しておくことです。

Q.改正前に贈与してしまえば、現行の評価方法が使えるのですか?

A.原則として、贈与や相続の時点で有効な評価ルールが適用されるため、改正前の承継には現行ルールが使われます。ただし、評価額を引き下げるためだけの不自然な駆け込みスキームは、財産評価基本通達の総則6項により個別に否認されるリスクがあります(マンション節税をめぐる2022年の最高裁判決が有名です)。「早めに動く」ことと「やり過ぎない」ことの両立が重要で、専門家の関与が欠かせない場面です。

Q.事業承継税制(納税猶予)を使えば、評価額が上がっても関係ないのでは?

A.そうとは言い切れません。事業承継税制は納税が「猶予」される制度であって「免除」ではなく、雇用や株式保有などの要件を満たし続けられなくなると、猶予されていた税額と利子税の納付が必要になることがあります。猶予税額の計算のベースになるのは自社株の評価額ですから、評価額はやはり重要です。また特例措置には計画の提出や適用の期限が設けられており、期限・要件は改正されることがあるため、最新の制度の確認が必要です。

Q.持株会社(ホールディングス)をつくれば株価対策になりますか?

A.持株会社化は事業承継の場面で使われることのある手法ですが、株価の引き下げだけを目的とした過度なスキームは、総則6項による否認リスクがあるうえ、今回の見直し議論でも対応強化の対象として挙げられています。組織再編は本来、経営上の目的があって行うものです。節税効果は「結果としてついてくるもの」と位置づけ、必ず税理士と一緒に慎重に設計してください。

まとめ|自社株評価と事業承継のシミュレーションはお早めに

この記事のまとめ
・非上場株式の評価ルールが見直しに向けて動いており、実勢価格との乖離是正という方向から、評価額が上がる会社が出る可能性がある
・現行は会社規模に応じて類似業種比準方式・純資産価額方式で評価。M&A価格との乖離などが問題視されている
・新ルールの適用は2028年が見通しとされるが、内容・時期とも未確定(2026年8月時点)
・相続・贈与は原則その時点のルールで評価されるため、「いつ承継するか」がコストに直結し得る
・まずは現行ルールでの自社株評価で現状を把握し、贈与・事業承継税制・M&Aなどの選択肢を早めに検討する

 

評価方法の見直しは、まだ内容が固まっていないからこそ、「決まってから考える」のではなく「決まる前に備える」ことに価値があります。自社株の評価額を知り、承継の選択肢を並べ、動ける状態をつくっておく——このすべてに、数年単位の時間がかかるからです。

当事務所では、現行ルールによる自社株評価のシミュレーションから、贈与・事業承継税制の活用検討、後継者不在の場合のM&Aのご相談まで、事業承継をワンストップでサポートしています。「まず自社株がいくらなのか知りたい」という段階でも、お気軽にご相談ください。

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