【2026年12月改正】企業型DCの拠出限度額が55,000円→62,000円へ。夫婦で役員の会社が最も得する制度設計とは?

監修 税理士 有馬 誠治

「企業型DCの掛金の上限が上がると聞いたけれど、うちの会社にどれくらいの影響があるのだろう」と気になっている経営者の方も多いのではないでしょうか。

令和7年(2025年)6月13日に成立した年金制度改正法により、2026年12月1日から企業型DC(企業型確定拠出年金)の拠出限度額が月額55,000円から62,000円に引き上げられます。月額では7,000円の差ですが、年間では84,000円、そして夫婦で役員をしている会社では2人分の効果が15年、20年と積み上がります。

この記事では、今回の改正の内容と、夫婦で役員をしている中小企業が拡充後の上限をフルに活用した場合の節税効果、役員が最も得をする制度設計のポイント、そして会社が倒産した場合でも企業型DCの資産が守られる理由を、税理士の視点から解説します。

 

2026年12月から企業型DCの拠出限度額はどう変わる?

まず、今回の改正の内容を整理します。

改正前と改正後の拠出限度額

一般的な中小企業の役員や従業員は、厚生年金の被保険者として国民年金の「第2号加入者」に区分されます。このうち、確定給付企業年金(DB)などの他の企業年金がない会社の場合、企業型DCの拠出限度額はこれまで月額55,000円でした。

企業型DC 拠出限度額の変更(第2号加入者・他の企業年金がない場合)
改正前(現行)月額55,000円年間660,000円
改正後(2026年12月1日施行)月額62,000円年間744,000円
拡充額月額7,000円年間84,000円

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※出典:厚生労働省「2025年の制度改正」(iDeCo・企業型DC・国民年金基金の拠出限度額の引き上げ、2026年12月1日施行)。

改正の背景と押さえておきたいポイント

厚生労働省の資料によると、今回の改正は老後に向けた資産形成を促進する観点から行われるもので、勤務先の企業年金の有無による差異を解消し、企業年金とiDeCo共通の拠出限度額を月額62,000円に一本化することが柱になっています。あわせて、iDeCoの拠出限度額も引き上げられます。

ポイント
・企業型DCの上限は月額55,000円→62,000円へ(DB等の他の企業年金がない会社の場合)
・施行日は2026年12月1日。施行前の掛金は現行の55,000円が上限
・上限の引き上げは「自動的に掛金が増える」わけではなく、会社の規約や掛金の設定を見直す必要がある

 

なお、確定給付企業年金など他の企業年金を併用している会社の場合は、企業年金等の合計で月額62,000円が上限となるなど取り扱いが異なります。自社がどの区分に該当するかは、規約や加入している年金制度をもとに確認が必要です。

夫婦で役員の会社が上限をフル活用すると、節税効果はいくらになる?

中小企業では、社長と配偶者の2人が役員を務めているケースが多くあります。ここでは、夫婦2人の役員が改正後の上限(月額62,000円)で企業型DCに加入した場合の節税効果を試算してみましょう。

試算の前提

試算の前提条件
加入者夫婦2名(いずれも役員・第2号加入者)
掛金月額62,000円×2名=月額124,000円 → 年間1,488,000円
法人税等の実効税率約34%と仮定
役員報酬各1,000万円(所得税率23%+住民税率10%=合計33%と仮定)
加入期間15年間

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①法人税の節税効果:15年間で約750万円

会社が拠出する掛金は、原則として全額を法人の損金(経費)として処理できます。年間掛金1,488,000円に実効税率約34%をかけると、法人税等の軽減額は年間約50万円です。これが15年間続くと、法人税等の節税効果は合計で約750万円にのぼります。

②個人の所得税・住民税の節税効果:15年間で約735万円

企業型DCの掛金は、役員個人の給与所得として扱われません。役員報酬として同じ金額を受け取った場合と比べると、所得税・住民税がかからない分だけ手元に残るお金が増えることになります。

役員報酬を年間1,000万円に設定している場合、所得税率は23%、住民税率は10%で、合計33%の税率が適用されます。夫婦2人がそれぞれ1,000万円の役員報酬を受け取っているとすると、年間掛金1,488,000円×33%=約49万円が個人側の税負担軽減額です。15年間では所得税・住民税の節税効果が約735万円になります。

③法人と個人を合わせると15年間で約1,485万円

夫婦2名・月額62,000円ずつ・15年間加入した場合の節税効果(試算)
 年間15年間合計
法人税等(実効税率約34%)年間約50万円15年間で約750万円
所得税・住民税(合計33%)年間約49万円15年間で約735万円
合計年間約99万円15年間で約1,485万円

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※上記は一定の前提に基づくシミュレーションです。法人税の実効税率は会社の所得金額や所在地により、所得税率は所得金額や各種控除により異なります。実際の効果は個別の状況によって変わりますので、目安としてご覧ください。

さらに、企業型DCの掛金は所得税・住民税・社会保険料の3つが非課税(対象外)となります。掛金の拠出方法によっては社会保険料の削減効果も期待できるため、上記の金額以上のメリットが生じるケースもあります。

ポイント
月額7,000円の拡充は小さく見えますが、夫婦2人分×15年間では掛金の総額で252万円増え、その分だけ法人・個人の税負担軽減額も大きくなります。上限の引き上げは「節税しながら老後資金を積み立てる枠」がそのまま広がることを意味します。

 

 

役員が最も得をする企業型DCの制度設計とは?

企業型DCで得られる効果は、掛金の額だけでなく「どの制度設計を選ぶか」で大きく変わります。特に役員の場合は、制度設計によって税務上の取り扱いが異なるため注意が必要です。

企業型DCの3つの制度設計

企業型DCの3つの制度設計
制度設計掛金の出し方特徴
①会社拠出型会社が役員報酬・給与とは別に掛金を拠出する掛金は全額会社の経費(福利厚生費等)。加入者の給与所得にはならない
②選択制給与の一部を「生涯設計手当」等に置き換え、加入者が掛金にするか給与として受け取るかを選ぶ希望者のみが加入できる。掛金部分は給与所得とみなされず、税・社会保険料の負担軽減が期待できる
③マッチング拠出会社の掛金に加えて、加入者本人が上乗せで掛金を拠出する本人の掛金は全額所得控除。会社掛金を超えない範囲など一定のルールがある

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役員は「会社拠出型」を選ぶのが基本

この3つのうち、役員については「会社拠出型」を選択することで、掛金の全額を法人の経費として処理することが可能です。役員報酬とは別に事業主掛金として拠出するため、掛金は役員報酬とみなされず、給与所得にもなりません。

もう一つの大きなメリットが、役員報酬の改定時期を気にせずに始められることです。役員報酬は、原則として事業年度開始から3か月以内に改定しなければ「定期同額給与」として損金算入できないというルールがあります。役員報酬を減額してその分を掛金に振り替える方法(選択制)の場合、改定時期と加入時期がずれると、減額部分が損金として認められないおそれがあります。

一方、会社拠出型であれば掛金は給与所得とされないため、定期同額給与の改定時期に縛られることなく、年度の途中からでも掛金の拠出を始めることができます

ポイント
・役員は「会社拠出型」で掛金全額を法人経費に
・役員報酬とは別枠のため、定期同額給与の改定時期(事業年度開始から3か月以内)を気にしなくてよい
・導入時には株主総会や取締役会の議事録を作成し、掛金の決定経緯を残しておくことが望ましい

 

※役員報酬の税務上の取り扱いは加入時期や加入方法によって異なります。導入前に所轄税務署または顧問税理士へ確認することをおすすめします。

役員と従業員で異なる制度設計を組み合わせることも可能

企業型DCは、会社全体で一つの制度設計に統一しなければならないわけではありません。役員は会社拠出型、従業員は選択制というように、それぞれ異なる制度設計を採用することも可能です。

従業員については、給与の一部を掛金に振り替える選択制にすれば、会社の負担を増やさずに福利厚生制度として導入でき、加入を希望する従業員だけが税・社会保険料の負担軽減を受けられます。役員は会社拠出型で上限まで積み立てる、という形にすれば、会社の資金負担を抑えつつ役員の老後資金と節税効果を最大化できます。

会社が倒産した場合であっても、企業型DCは差し押さえされず、年金として守られます

役員として企業型DCに加入するとき、「万が一会社が倒産したら、積み立てたお金はどうなるのか」「会社の借金の返済に充てられてしまうのではないか」と不安に感じる方も少なくありません。結論からいえば、企業型DCの資産は加入者本人の年金資産として法律で保護されており、会社が倒産しても原則として差し押さえの対象にはなりません

企業型DCの資産は会社の財産とは切り離されている

企業型DCの掛金は、会社が拠出したものであっても、拠出された時点で加入者一人ひとりの専用口座に積み立てられ、運営管理機関・資産管理機関のもとで管理されます。会社の預金や不動産のような「会社の財産」ではないため、会社が破産しても破産財団には組み込まれず、会社の債権者が回収に充てることはできません。会社が拠出した掛金部分も、本人が上乗せしたマッチング拠出部分も、同じように保護されます。

確定拠出年金法で「差押禁止財産」と定められている

確定拠出年金法第32条では、給付を受ける権利は「譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない」と定められています。つまり、企業型DCの受給権は法律上の差押禁止財産であり、会社の倒産時だけでなく、役員個人が連帯保証などによって自己破産することになった場合でも、原則として自由財産として手元に残り、60歳以降に年金または一時金として受け取ることができます。

ポイント
・企業型DCの資産は加入者ごとの専用口座で管理され、会社の財産とは完全に分離されている
・確定拠出年金法第32条により、受給権は譲渡・担保提供・差し押さえが禁止されている
・会社の倒産時も、役員個人の自己破産時も、原則として老後資金として守られる

 

中小企業の役員は、会社の借入に個人保証をしているケースが多く、事業が行き詰まると個人の財産まで失うリスクを抱えています。企業型DCで積み立てた資産は、そうした最悪の事態になっても本人と家族の老後資金として残る、数少ない財産だといえます。節税効果だけでなく、この「守られる」という点も、役員が企業型DCを活用する大きな理由の一つです。

※ただし、税金を滞納している場合は、国税徴収法に基づく滞納処分により老齢給付金や死亡一時金の受給権が差し押さえられる可能性があります。また、企業型DCは原則60歳まで解約・引き出しができないため、倒産前に資産を取り崩して使うことはできません。

 

導入前に知っておきたい注意点

節税効果の大きい制度ですが、次の点は事前に理解しておく必要があります。

原則60歳まで引き出せない

確定拠出年金は老後資金のための制度であり、積み立てた資産は原則として60歳まで引き出すことができません。会社の資金繰りとは切り離して、長期で積み立てられる金額を設定することが大切です。

運用成果によって受取額は変わる

掛金は加入者自身が選んだ投資商品で運用され、元本確保型の商品を選ぶこともできますが、元本変動型の商品を選んだ場合は運用成果によって将来の受取額が増減します。

選択制では将来の社会保険給付に影響する場合がある

選択制で給与を減額して掛金に振り替えると、標準報酬月額が下がるため、将来受け取る厚生年金額や傷病手当金などの給付額が減る可能性があります。メリットとデメリットを比較して判断することが重要です。

施行日までに規約や掛金設定の見直しが必要

拠出限度額が引き上げられても、会社の規約や掛金の設定が55,000円のままでは効果は得られません。2026年12月の施行に向けて、規約変更や掛金の見直しについて運営管理機関や顧問税理士と早めに相談しておきましょう。

いつから準備を始めるべきか

施行日は2026年12月1日ですが、企業型DCの新規導入には規約の作成、運営管理機関との契約、加入者説明など数か月程度の準備期間が必要です。すでに導入している会社でも、規約変更や掛金の再設定には時間がかかります。

「改正のタイミングで上限まで活用したい」と考えている場合は、2026年の早い時期から準備を始めるのが理想的です。また、まだ企業型DCを導入していない会社は、改正を待たずに現行の55,000円で始めておき、施行後に掛金を引き上げるという進め方もできます。

 

まとめ

この記事のまとめ
・年金制度改正法(2025年6月成立)により、2026年12月1日から企業型DCの拠出限度額が月額55,000円→62,000円に引き上げられる
・夫婦2名の役員が上限までフル活用すると、試算では法人税等と所得税・住民税を合わせて15年間で約1,485万円の節税効果
・掛金は所得税・住民税・社会保険料の対象外。社会保険料の削減効果を含めるとさらに大きくなるケースもある
・役員は「会社拠出型」を選ぶことで掛金全額を法人経費にでき、定期同額給与の改定時期にも縛られない
・役員は会社拠出型、従業員は選択制など、異なる制度設計の組み合わせも可能
・企業型DCの資産は確定拠出年金法第32条により差し押さえが禁止され、会社が倒産しても原則として年金資産として守られる
・60歳まで引き出せないこと、運用リスク、選択制の社会保険給付への影響には注意が必要

 

企業型DCは、節税と老後資金の準備を同時に進められる数少ない制度です。特に夫婦で役員を務める会社にとっては、今回の上限引き上げは見逃せないチャンスといえます。ただし、制度設計や役員報酬との関係は会社ごとに最適な形が異なります。

有馬誠治税理士事務所では、企業型DCの導入・見直しに関するご相談を承っています。「自社の場合はいくら節税できるのか」「会社拠出型と選択制のどちらが合っているのか」など、シミュレーションを含めてお気軽にご相談ください。

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