企業型確定拠出年金に入ると厚生年金が減る?社会保険料への影響と正しい理解

監修 税理士 有馬 誠治

「企業型DCに入ると厚生年金が減ると聞いたけど本当ですか?」という質問は、経営者・人事担当者・従業員を問わず非常によく見られます。

結論から言うと、通常の企業型DC(事業主が掛金を拠出する形式)では、厚生年金保険料にも将来の厚生年金受給額にも影響しません。

一方、選択制DCと呼ばれる給与振替型の制度では社会保険料の計算基礎が変わるため、厚生年金保険料・将来の受給額に影響が出ます。

この2つが混同されているため「企業型DCに入ると厚生年金が減る」という誤解が広まっています。本記事では、企業型DCの種類ごとに社会保険料への影響を整理し、制度を正しく理解するための解説を行います。

※図解画像をここに掲載予定

厚生年金と企業型DCはまったく別の制度

そもそも厚生年金と企業型DCは、根拠法も運用主体もまったく異なる別制度です。

厚生年金と企業型DCの比較
項目厚生年金企業型DC
根拠法厚生年金保険法確定拠出年金法
運営主体国(日本年金機構)企業・運営管理機関
財源保険料(労使折半)会社拠出の掛金(+任意で従業員分)
受取額加入期間・標準報酬月額で決まる自分の運用成果によって決まる
目的公的老齢年金・障害・遺族保障企業独自の老後資産形成支援

厚生年金は国が運営する公的年金制度であり、毎月の給与・賞与をもとに計算した保険料を会社と従業員が折半して納めます。企業型DCはこれとは完全に独立した制度であり、会社が別途掛金を拠出するものです。

したがって、企業型DCへの加入そのものが厚生年金の加入状況に影響することはありません。

通常の企業型DC(事業主拠出型)は社会保険料に影響しない

一般的な企業型DCは、会社(事業主)が毎月一定額の掛金を従業員の口座に拠出する仕組みです。この掛金は従業員の給与・賞与とは別に拠出されるため、社会保険料の計算基礎となる「標準報酬月額」には含まれません。

標準報酬月額とは

厚生年金・健康保険の保険料は、給与・賞与の額をもとに決まる「標準報酬月額」を基準に計算されます。会社が企業型DCの掛金を払っても、従業員の給与額は変わらないため、標準報酬月額も変わりません。

結果として、通常の企業型DC加入によって厚生年金保険料・健康保険料は変化せず、将来の厚生年金受給額にも影響しません。

マッチング拠出も社会保険料に影響しない

従業員が自分の掛金を上乗せする「マッチング拠出」についても同様です。加入者掛金は給与から控除されますが、社会保険料の計算は控除前の給与額をもとに行うため、標準報酬月額は変わりません。マッチング拠出によって厚生年金保険料が変動することはありません。

例外:選択制DC(給与振替型)は社会保険料に影響する

一方で、「選択制DC」と呼ばれる方式を採用している会社の場合は、社会保険料に影響が出ます。

選択制DCの仕組み

選択制DCは、従業員が給与の一部をDCの掛金として「振り替える」方式です。たとえば月給30万円のうち2万円を掛金に振り替えると、給与として受け取る額が28万円になります。

この場合、社会保険料の計算基礎となる標準報酬月額は振り替え後の28万円をもとに算定されます。その結果、厚生年金保険料・健康保険料の自己負担額が減り、手取りが増えるという効果があります。

選択制DCで「厚生年金が減る」とは

標準報酬月額が下がると、将来の厚生年金の受給額も下がる可能性があります。厚生年金の受給額は加入期間中の標準報酬月額の平均に連動して計算されるためです。

ただし、将来の年金が微減する点だけを見て「損だ」と判断するのは早計です。今、節約できる社会保険料(自己負担分)と所得税・住民税の合計額をそのまま企業型DCで長期運用(運用益非課税)した場合、将来減る年金額を上回る老後資産を築けるケースが多くあります。目先の年金の減少額だけでなく、生涯トータルの手取り額・資産額で比較することが大切です。

また、標準報酬月額に連動する各種公的給付も影響を受ける点は見落とされやすいポイントです。将来の年金だけでなく、病気やケガで休業した際の傷病手当金、産休中の出産手当金、万が一退職した際の失業保険(雇用保険の基本手当)の受給額も、標準報酬月額の低下に伴い減少します。特に近い将来に産休・育休を控えている従業員がいる場合は、この点を丁寧に説明することが信頼性の観点からも重要です。

選択制DCが社会保険料に与える影響まとめ
【短期的なメリット】
・標準報酬月額が下がる → 毎月の厚生年金・健康保険の自己負担保険料が減る
・所得税・住民税も軽減される → 手取り収入が増える
・浮いた保険料・税金をDCで長期運用(非課税)すれば、トータル資産はプラスになるケースが多い

【注意が必要な点】
・将来の厚生年金受給額が減少する可能性がある
・傷病手当金(病気・ケガで休業時)が減少する
・出産手当金(産休中)が減少する → 産休・育休を控えた従業員への説明が特に重要
・失業保険(退職時の雇用保険の基本手当)が減少する

 

※影響の大きさは給与水準・振替額・加入期間・運用成果により個人差があります。詳細は社会保険労務士・税理士に確認することをおすすめします。

企業型DCの種類ごとの社会保険料への影響を整理する

ここまでの内容を3つの制度で整理すると次のとおりです。

企業型DCの種類と社会保険料への影響比較
DC制度の種類掛金の出所社会保険料への影響将来の厚生年金への影響
通常の企業型DC(事業主拠出のみ)会社が別途拠出なしなし
マッチング拠出(加入者拠出)給与控除(控除前の額で計算)なしなし
選択制DC(給与振替型)給与の一部を振替あり(保険料が下がる)あり(受給額が下がる可能性)

「うちの会社はどの方式か?」がわからない場合は、会社の人事・総務担当者か、導入している企業型DCの運営管理機関に確認してください。給与明細の記載や規約の内容で判断できます。

「企業型DCに入ると厚生年金が減る」という誤解が広まる理由

この誤解が広まる背景には、主に次の3つの原因があります。

① 選択制DCと通常の企業型DCが混同されている

選択制DCは確かに標準報酬月額・厚生年金保険料に影響します。しかし通常の事業主拠出型DCは影響しません。この2つを同じ「企業型DC」として扱う情報が多いため、「企業型DCは厚生年金に影響する」という誤った一般化が生まれています。

② 企業型DCは「国の年金の代わり」という誤ったイメージ

企業型DCは「老後のお金を準備する」という点では公的年金と共通しますが、制度の仕組みは全く異なります。企業型DCが普及するにつれ「国の年金の代わりに会社が用意するもの」というイメージが先行し、「企業型DCが増えると厚生年金が減る」という誤解につながっています。

③ 確定給付型企業年金(DB)との混同

以前から存在する確定給付型の企業年金(DB:Defined Benefit)では、会社が年金資産を一括運用するため、公的年金と類似した仕組みに見えます。DBからDCへの移行が進む中で、こうした制度の混同が誤解を増幅させているケースもあります。

経営者・人事担当者が確認すべきポイント

企業型DCの導入を検討する際、「社会保険料への影響」について従業員から懸念の声が上がることがあります。その際に正しく説明できるよう、以下を整理しておきましょう。

企業型DC導入時に従業員へ説明すべき社会保険料の論点
・通常の事業主拠出型DCは、給与額・標準報酬月額に影響しないため厚生年金への影響はない
・マッチング拠出も同様に社会保険料は変わらない
・選択制DCを導入する場合は、標準報酬月額の低下→将来の厚生年金受給額への影響を従業員に丁寧に説明する
・選択制DCのメリット(手取り増)とデメリット(将来年金・傷病手当等の減少)を対比して案内する
・「企業型DCに入ると年金が減る」という誤解を放置すると従業員の不安・不信感につながる

 

選択制DCの導入を検討中の経営者へのチェックポイント
・従業員の年齢層・給与水準ごとに標準報酬月額低下の影響をシミュレーションしたか
・傷病手当金・出産手当金・雇用保険給付への影響を確認したか
・将来の厚生年金受給額への影響を試算・説明する準備ができているか
・社会保険労務士との連携で導入後のトラブルリスクを整理したか

 

まとめ

「企業型DCに入ると厚生年金が減る」という認識は、制度の種類を区別しないことから生まれる誤解です。正しく整理すると次のとおりです。

まとめ
・通常の企業型DC(事業主拠出のみ):厚生年金・社会保険料に影響なし
・マッチング拠出:厚生年金・社会保険料に影響なし
・選択制DC(給与振替型):標準報酬月額が下がるため、厚生年金保険料の自己負担が減る一方、将来の厚生年金受給額が下がる可能性がある

 

自社がどの方式を採用しているか、あるいは今後どの方式で導入するかによって、従業員への説明内容と注意事項は大きく変わります。正確な理解に基づいた制度設計と説明のために、税理士・社会保険労務士への相談を活用してください。

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