企業型DCは年末調整で何をする?従業員・会社の対応
「企業型DC(企業型確定拠出年金)を導入しているけれど、年末調整の手続きはどうすればいいのか?」
「従業員から『年末調整で控除の申請は必要ですか?』と聞かれたが、即答できない……」
中小企業の経営者や総務担当者の方々から、このような相談をよくいただきます。
企業型DCは、会社が掛金を拠出する制度であるため、原則として従業員個人が年末調整で何かをする必要はありません。
しかし、例外として「マッチング拠出」を利用している場合や、iDeCo(イデコ)と併用している場合は、手続きが必要になるケースがあります。
本記事では、企業型DCと年末調整の関係について、経営者が知っておくべき実務のポイントや、社会保険料削減といった会社側のメリットまで、専門家が分かりやすく解説します。
目次
企業型DC(企業型確定拠出年金)と年末調整の基本ルール|原則不要
まず結論からお伝えすると、一般的な企業型DCの掛金については、年末調整での手続きは不要です。
会社拠出の掛金は「所得」に含まれない
企業型DCにおいて、会社が従業員のために拠出する掛金は、従業員個人の所得(給与)とはみなされません。
そのため、所得税や住民税の課税対象外となり、最初から「なかったもの」として扱われます。
控除を受けるための申請自体が不要なのは、そもそも課税されていないからです。
従業員が年末調整で「小規模企業共済等掛金控除」を書くケース
原則不要ですが、以下の2つのパターンに該当する場合は、年末調整(または確定申告)で「小規模企業共済等掛金控除」として申告する必要があります。
1. マッチング拠出を利用し、個人拠出分について控除申請が必要となるケース
※通常は給与天引きで処理されるため年末調整は不要ですが、制度設計や拠出方法によっては申告が必要となる場合があります。
2. iDeCo(個人型確定拠出年金)を併用し、個人口座から掛金を支払っている場合
特に「企業型DCとiDeCoの併用」は2022年の制度改正以降、非常に増えています。
従業員から「ハガキ(小規模企業共済等掛金払込証明書)が届いたのですが」と相談された場合は、iDeCoの分である可能性が高いでしょう。
企業型DCとiDeCoの併用・移管における注意点
最近では、中途採用した従業員が「前職で企業型DCに入っていた」「以前からiDeCoをやっている」というケースが一般的です。
企業型DCとiDeCoを併用する場合の控除
企業型DC(選択制を含む)を導入している会社で、従業員が個人でiDeCoにも加入している場合、iDeCoの掛金は「個人口座から引き落とし」されているはずです。
この場合、iDeCoの掛金は所得控除の対象となるため、従業員自身が年末調整で申告を行う必要があります。
退職・転職時の資産移管(ポータビリティ)
従業員が退職した場合、企業型DCの資産は「放置」してはいけません。
転職先に企業型DCがある場合:
転職先の制度へ移管
転職先にない、または自営業になる場合:
iDeCo(個人型)へ移管
もし6ヶ月以内に手続きをしないと、資産は国民年金基金連合会に「自動移管」されてしまいます。
自動移管されると、運用が止まるだけでなく、管理手数料だけが引かれ続けるというデメリットがあるため、会社としても退職時の案内が重要です。
経営者が知っておきたい企業型DC導入のメリット
「年末調整の手間が増えるだけでは?」と懸念される経営者の方もいらっしゃいますが、実は企業型DCは「会社側」に非常に大きなメリットがあります。
社会保険料の削減シミュレーション
企業型DC、特に「選択制」と呼ばれる仕組みを導入すると、会社負担の社会保険料を削減できる可能性があります。
※社会保険料削減効果は、給与を掛金に振り替える「選択制DC」を採用した場合に限られます。
従業員が給与の一部を企業型DCの掛金として拠出することを選択した場合、その分「標準報酬月額」が下がります。
社会保険料は標準報酬月額に基づいて計算されるため、結果として会社が負担する社会保険料(厚生年金・健康保険など)が軽減されるのです。
以下は、選択制DCで月5.5万円を拠出した場合の簡易シミュレーションです。
| 選択制DC導入による社会保険料削減シミュレーション(月5.5万円拠出) | ||
| 項目 | 導入前 | 導入後(月5.5万円拠出) |
| 月額給与 | 500,000円 | 445,000円 |
| 社会保険料(会社負担分) | 約75,000円 | 約67,000円 |
| 年間の削減額(概算) | - | 約96,000円 |
※料率は自治体や加入保険組合により異なります。
このように、従業員1名あたり年間で数万円〜十数万円のコストカットに繋がることがあります。
役員退職金の効率的な積み立て
経営者ご自身も「役員」として加入できます。
企業型DCの掛金は全額損金算入できるため、会社の利益を圧縮しつつ、自分自身の老後資金を非課税で積み立てることが可能です。
上限額(月額5.5万円、他制度併用時は2.75万円)の範囲内であれば、所得税・住民税もかからないため、普通に役員報酬を増やすよりも圧倒的に「手残り」が多くなります。
従業員にとってのメリットとデメリットの伝え方
制度を導入・運用する際、従業員に対しては「節税効果」と「運用の自己責任」の両面を正しく伝える必要があります。
節税効果による実質的な手取りアップ
企業型DCの最大のメリットは、掛金が課税対象外となる点です。
節税効果の具体例:
年収500万円の従業員が月々2万円を積み立てた場合、所得税(10%)と住民税(10%)を合わせて、年間で約4.8万円の税金が安くなります。
銀行預金では利息に20.315%の税金がかかりますが、企業型DC内での運用益はすべて非課税です。
デメリットとしての「将来の年金額」への影響
社会保険料が下がるということは、将来受け取る「老齢厚生年金」の額がわずかに減少することを意味します。
ただし、削減された社会保険料と節税額を合わせれば、将来減る年金額よりも、手元で運用して作る資産の方が大きくなるケースがほとんどです。
この点をシミュレーションを用いて説明することで、従業員の納得感を得やすくなります。
企業型DCの掛金変更と事務手続きの負担
「導入した後の事務作業が大変そう」という不安は、多くの中小企業経営者が抱くものです。
掛金変更のルールと上限
企業型DCの掛金(企業型確定拠出年金 掛金)には上限があります。
他の企業年金(DBなど)がない場合:
月額 55,000円
他の企業年金がある場合:
月額 27,500円
掛金の変更は、原則として年に1回〜2回(規約による)と定められているため、毎月のように事務作業が発生することはありません。
手数料の会社負担について
iDeCoは加入者個人が手数料を負担しますが、企業型DCは「会社が手数料を負担する」のが原則です。
「コストがかかるのは避けたい」と思われるかもしれませんが、前述した「社会保険料の削減額」が「管理手数料」を上回るケースが多く、実質的な持ち出しなし(あるいはプラス)で福利厚生を充実させることが可能です。
よくある質問(FAQ):企業型DCと税務・実務
Q. 企業型DCに加入している場合、確定申告は必要ですか?
A. 原則不要です。ただし、住宅ローン控除の初年度や、ふるさと納税、医療費控除を受ける場合は別途確定申告が必要になりますが、企業型DCが原因で確定申告が必要になることはありません。
Q. マッチング拠出の掛金は年末調整でどう書けばいいですか?
A. 給与天引きで実施している場合、会社側で把握しているため、従業員が「給与所得者の保険料控除申告書」に記入する必要はありません。源泉徴収票の「小規模企業共済等掛金」の欄に自動的に合算されます。
Q. 50代から始めてもメリットはありますか?
A. あります。50代の方は受け取りまでの期間が短いため、リスクを抑えた運用商品(元本確保型など)を選びつつ、所得税・住民税の節税メリットを確実に享受する戦略が有効です。
Q. パートやアルバイトも加入させる必要がありますか?
A. 厚生年金の被保険者であれば対象にできますが、規約により「職種」などで限定することも可能です。全員加入にするか、選択制にするかは設計次第です。
まとめ:複雑な税務・労務管理は専門家へ
企業型DCは、年末調整の手続き自体はシンプルですが、制度の導入設計や「社会保険料削減」を考慮した運用には専門的な知識が必要です。
特に経営者の方は、ご自身の資産形成と会社のキャッシュフロー改善を同時に実現できる絶好のツールです。
・自分の会社ではいくら削減できるのか?
・導入の手間はどの程度か?
・役員自身の退職金準備にどう活かせるか?
といった具体的なシミュレーションについては、ぜひ一度ご相談ください。
当事務所では、福岡を中心に多くの中小企業様の税務顧問・福利厚生導入をサポートしております。
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