企業型確定拠出年金の制度は何が変わった?2024年法改正のポイントを税理士が整理

「うちの会社、企業型DCを導入しているけど、最近なにか制度が変わったと聞いた。自分が知らないうちに損していないか心配…」
そんな不安を抱えている経営者・人事担当者の方は少なくありません。企業型確定拠出年金(企業型DC)は、2022年から2024年にかけて段階的に大きな法改正が行われました。特に2024年12月に実施された法改正によるiDeCo併用解禁は、現在すでに施行されており、従業員の老後資産形成の選択肢を大きく広げています。
この記事では、企業型DCの制度変更を時系列で整理しながら、経営者・社長が現在押さえておくべきポイントを税理士の視点でわかりやすく解説します。
※図解画像をここに掲載予定
目次
企業型DCをめぐる「改正ラッシュ」が続いている背景
政府は「老後2,000万円問題」以降、国民の自助努力による老後資産形成を促進する方針を強化しています。その一環として、企業型DCとiDeCoの制度を拡充・使いやすくする法改正が複数回にわたって実施されました。
改正の主な目的
今回の一連の改正には、大きく3つの目的があります。第一に、加入機会の拡大です。年齢上限の引き上げにより、より多くの従業員が制度を利用できるようになりました。第二に、iDeCoとの柔軟な併用です。これまで企業型DC加入者がiDeCoを使うには煩雑な手続きが必要でしたが、それが大幅に簡略化されました。第三に、受給タイミングの柔軟化です。受け取り開始時期の上限が延長され、長期運用がしやすくなっています。
ポイント:
企業型DCの改正は「老後資産形成の自助努力を支援する」という国の方針を背景に、2022〜2024年にかけて段階的に実施されています。経営者は制度の最新状況を把握し、従業員への適切な周知・対応が求められます。
2022年〜2024年の主な改正内容を時系列で整理
改正は一度にすべて行われたわけではなく、複数の施行日に分けて順次実施されています。混乱しないよう、時系列で整理しておきましょう。
①2022年4月施行:受給開始年齢の上限が75歳に延長
それまで「60〜70歳の間に受給開始」というルールでしたが、2022年4月からは受給開始可能な年齢の上限が70歳から75歳に延長されました。これにより、60歳以降も働き続ける方は受給を遅らせて運用期間を延ばすことができます。
変更前後の比較:
・変更前:受給開始年齢 60〜70歳の間に選択
・変更後:受給開始年齢 60〜75歳の間に選択
(※現行制度では。加入状況等により異なる場合があります)
②2022年5月施行:加入年齢の上限が70歳未満に延長
企業型DCの加入年齢の上限が、従来の「65歳未満」から「70歳未満」に引き上げられました(厚生年金被保険者であることが要件)。これにより、60代後半の役員や従業員も新たに加入対象となりうるケースが生まれています。
なお、同時期にiDeCoの加入年齢上限も「60歳未満」から「65歳未満」に延長されています。
③2022年10月施行:企業型DC加入者のiDeCo加入要件が緩和
2022年10月には、企業型DC加入者がiDeCoに加入するための規約上の要件が緩和されました。これは2024年12月の「完全解禁」への準備段階にあたる改正です。
④2024年12月施行:iDeCoとの完全併用が解禁(最重要)
2024年12月施行の改正は、今回の一連の改正の中で最も大きなインパクトを持つものです。これまで企業型DC加入者がiDeCoに加入するには「会社の規約に定めがあること」が必要でしたが、この規約の定めが不要となり、原則として全員がiDeCoに加入できるようになりました。
2024年12月改正の要点:
・企業型DC加入者がiDeCoに加入するための会社規約が不要に
・企業型DCの掛金+iDeCo掛金の合計は月額5万5,000円(他の確定給付型等との併用時は2万7,500円)を超えられない
・マッチング拠出を選択している加入者はiDeCoとの重複利用はできない(どちらか一方の選択)
(※上記は現行制度の原則です。個別の状況によって適用が異なる場合があります)
掛金の上限額はどうなっている?現行ルールを整理
制度改正後の掛金上限は複雑に見えますが、ポイントを押さえれば理解しやすくなります。
企業型DCの掛金上限(事業主掛金)
| 企業型DCの掛金上限 | |
| 企業型DCの状況 | 月額上限 |
| 企業型DCのみ加入(確定給付型なし) | 月額 5万5,000円 |
| 確定給付型等を併用している場合 | 月額 2万7,500円 |
iDeCoとの合算上限(2024年12月以降)
| iDeCoとの合算上限 | ||
| パターン | 合算上限 | iDeCoの上限 |
| 企業型DCのみ(確定給付型なし) | 月額 5万5,000円 | 月額 2万円 |
| 確定給付型等を併用 | 月額 2万7,500円 | 月額 1万2,000円 |
※上記の数値は2024年時点の制度に基づきます。税制・制度は改正されることがあるため、最新情報は厚生労働省の公式案内をご確認ください。
中小企業の経営者が特に注意すべき3つのポイント
一連の改正は従業員にとってメリットが大きいものですが、会社側にも対応が必要な場面があります。経営者・人事担当者が特に注意すべき点を3つ挙げます。
①従業員個人はマッチング拠出とiDeCoのどちらか一方のみ選択可能
会社がマッチング拠出を導入している場合でも、従業員はiDeCoを利用できるようになりました。ただし、「マッチング拠出による上乗せ」と「iDeCoによる上乗せ」を従業員が同時に両方行うことはできません。従業員一人ひとりがどちらか一方を選択する必要があります。
つまり、会社単位では両制度を「共存」させることが可能ですが、従業員個人単位では二者択一となります。どちらが有利かは個人の状況(給与水準・他の年金加入状況など)によって異なるため、会社側が制度の概要を説明する機会を設け、従業員が適切に選択できるよう支援することが望ましいでしょう。
②掛金の合算管理が会社側にも求められる
iDeCoと企業型DCの掛金合計が上限を超えないよう、会社側も情報管理の体制整備が必要です。特に給与計算担当者や社労士と連携し、上限超過が起きない仕組みを整えておくことが重要です。
③iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)の活用も検討を
従業員300人以下の中小企業では、iDeCo+(中小事業主掛金納付制度)という選択肢もあります。企業型DCを新たに設立するコストをかけずに、事業主が従業員のiDeCoに上乗せ拠出できる仕組みです。企業型DCの導入が難しい小規模事業者にとっては、検討の価値があります。
経営者チェックリスト:
・自社の企業型DCが確定給付型との「併用型」か「単独型」か確認する
・マッチング拠出を導入している場合は従業員への制度説明を見直す
・70歳未満の役員・従業員が加入対象外になっていないか確認する
・規約の内容が現行法令に合致しているか社労士・税理士に確認を依頼する
(※各チェック項目の具体的な対応については、専門家にご相談ください)
企業型DCの節税効果は改正後も変わらない
制度変更があっても、企業型DCの節税上のメリットは引き続き強力です。事業主が拠出する掛金は原則として全額損金算入でき(※会社の状況・規約内容により異なります)、従業員側では所得税・住民税の課税対象外として扱われます。
さらに、運用益は非課税、60歳以降の受け取り時も退職所得控除・公的年金等控除の適用があるなど、税制上の優遇は手厚い制度です。
制度変更を機に、自社のDC規約を見直そう
法改正があっても、会社の規約が古いままでは制度の恩恵を従業員が受けられないケースがあります。特に以下の場面では、専門家への相談をお勧めします。
まず、規約の内容が現行法令に対応しているか確認したい場合。次に、iDeCoとの併用方針を社内ルールとして整備したい場合。さらに、今後の事業承継・役員退職金設計において企業型DCをどう組み込むか検討したい場合です。
企業型DCは設計次第で会社と従業員の双方にメリットをもたらす制度ですが、正しく活用するには最新の制度知識と実務上のノウハウが不可欠です。
まとめ:2024年改正で企業型DCはより使いやすくなった
この記事のまとめ:
・2022年4月:受給開始年齢の上限が70歳から75歳に延長
・2022年5月:加入年齢の上限が65歳未満から70歳未満に延長(厚生年金被保険者が条件)
・2024年12月:企業型DC加入者が規約なしでiDeCoに加入可能に(完全併用解禁)
・掛金合算上限は月額5万5,000円(確定給付型等との併用時は2万7,500円)
・マッチング拠出とiDeCoは重複不可(どちらか一方の選択)
・従業員への周知・規約の見直しが会社側の対応として求められる
(※各内容は2024年時点の制度に基づきます)
企業型DCの制度改正は従業員の老後資産形成にとって大きなプラスです。一方で、経営者・人事担当者としては最新のルールを把握し、適切に対応することが求められます。制度の見直しや導入を検討される際は、ぜひ税理士へご相談ください。