税務調査に備えるには?領収書がない経費の扱いと否認リスクを解説|福岡版

監修 有馬 誠治

はじめに「税務調査」と聞くと身構えてしまう方は多いですが、実は仕組みと準備のコツを知っていれば恐れる必要はありません。

本記事では、福岡の個人事業主・法人の方向けに、領収書がないときの実務対応から、調査の流れ、地域事情までをやさしく整理します。

税務調査とは?基本の理解(任意調査・強制調査・対象)

税務調査は、申告内容の適正さを確認するために国税庁・税務署等が行う調査です。

実務上は、納税者の協力のもとに行われる任意調査が中心で、無予告での強制調査(査察)は脱税嫌疑など例外的な場面に限られます。

国税庁は平成23年改正で調査手続の透明化を進め、事前通知の対象や調査の進め方を通達やFAQで明確化しています。

対象は個人(フリーランス・副業を含む)・法人・相続税・贈与税まで幅広く、帳簿や書類を提示・提出する義務の範囲も国税通則法上で整理されています。

福岡市や九州エリアでの税務調査の傾向

福岡国税局は、無申告事案や海外資産関連など重点分野を明示し、資料情報の活用や実地調査・簡易な接触を組み合わせた対応を公表しています。

地域としてもスタートアップや個人事業が多く、無申告や経費処理の誤りに関する指摘が出やすい土壌があります。

具体的な取組・事績は局の公開資料で確認できます。

領収書がない経費はどう扱われる?

「領収書がない=必ず否認」ではありません。

ただし説明責任(立証責任)は納税者側にあり、実在性・必要性・対価性を示せるかがポイントです。

領収書がない場合の否認リスク

証拠が弱いほど、経費性の説明が難しくなり否認・加算税・延滞税のリスクが高まります。

とくに現金決済・接待交際費・交通費の立証は、客観資料が少ないと疑義を招きやすい領域です。

電子取引やデータ保存の整備は、後日の説明力を大きく左右します(電子帳簿保存法の制度活用が有効)。

領収書がなくても認められる可能性のある証拠

下表は、代替証拠として提示できる資料の例と、実務における有効性の目安を示しています。

複数の資料を組み合わせて活用することが基本です。

代替証拠の例 何を裏づけるか 実務での有効性の目安
銀行振込明細・ネットバンキング画面 実際の支払(資金移動) 金額・日付の客観性が高く、相手方名義も確認できるため有力
クレジットカード明細 決済の事実と利用日 決済の存在は示せるが、業務関連性の説明資料と併用が安全
契約書・注文書・請求書・納品書 取引関係・役務提供の実在 取引の継続性・対価性の説明に有効。差し戻しや変更履歴も保存
メール・チャット・見積依頼 交渉過程・業務関連性 日付・相手・内容が具体的なほど説得力が増す
旅行・交通系の予約・領収データ 出張の実在・移動経路 行程と業務の関連(訪問先・議事録等)とセットで提示

※ 電子取引データの適正保存は制度活用の前提。要件は国税庁特設サイトの最新情報で確認しましょう。

表のとおり、1点突破より“総合力”。支払の客観性(明細)+取引の実在(契約・納品)+業務関連性(やり取り・議事)を束ねて示すイメージです。

領収書を紛失したときの対処法(再発行依頼・理由書)

領収書をなくしてしまったとき、最初にすべきことは発行元に問い合わせることです。

たとえば飲食店での接待費の領収書を紛失した場合は、店に電話をして「○月○日の△△株式会社山田名義で32,780円を法人カードで決済しましたが、領収書を紛失してしまいました。再発行は可能でしょうか?もし難しい場合はレシートや利用明細の写しをいただけないでしょうか」と依頼します。

タクシー代であれば、配車アプリの乗車履歴や領収データが再発行代わりになることもあります。

もし再発行が難しい場合には、他の客観的な証拠を揃えることが重要です。銀行振込明細やクレジットカードの利用明細、注文書や請求書、さらに相手先とのメールやチャット履歴などをまとめることで、取引の実在性を示すことができます。

たとえば「9月12日に取引先A社と会食を行った」という事実を説明する場合には、クレジットカードの利用明細、飲食店への予約確認メール、当日の議事メモを一緒に提出すると説得力が高まります。

それでも説明が不足しそうな場合は、「理由書」を作成するのが有効です。理由書には「日付」「金額」「相手先」「取引の目的」「紛失の理由」を具体的に書きます。

たとえば「会食後に領収書を名刺入れに入れて持ち歩いていたが、翌日の移動中に紛失した。以後は会計アプリで撮影保存する体制に改める」と記載すれば、紛失が一時的なミスであることや再発防止策が明確になります。

最後に、今後の対策として電子保存を徹底することが欠かせません。

紙の領収書は失くしやすいため、受け取ったその場でスマホのアプリで撮影し、クラウドに保存する仕組みを作っておくのが安心です。

また、ネットバンキングやキャッシュレス決済を積極的に利用すれば、利用明細が自動で証拠として残るため、調査時の立証が格段にスムーズになります。

領収書の裏取り調査(反面調査)の実態

納税者側の説明だけでは不十分な場合、税務署が取引先に事実確認を行うのが反面調査です。

無予告で行われることもあり、取引先に余計な負担や不信を与える前に、自社で出せる客観資料を先に揃えるのが得策です。

税務調査の流れと対応方法

税務調査は、事前通知→実地調査→持ち帰り審査→結果説明・是認/指摘→修正申告等という大枠で進みます。

国税庁は通達で、事前通知の事項(日時・税目・対象期間・対象帳簿など)や、例外的に無予告とする場面を明示しています。

事前通知から当日調査、結果通知までの流れ

段階 概要 納税者の準備
事前通知 電話等で日時・税目・対象期間・持参書類の案内 スケジュール調整、書類の所在確認、関係者の役割分担
実地調査(初日〜数日) 会社・自宅・税理士事務所などでヒアリングと書類確認 代表者・経理のヒアリング対応、即日コピー・提示体制
持ち帰り審査 追加資料の依頼、取引先への反面調査等 期限内の追加提出、説明書類の整備
結果説明 是認/指摘事項の説明、修正申告の要否 指摘根拠の確認、争点の洗い出し、方針決定
手続完了 修正申告・納付、または不服申立て等 再発防止策の実行、保存・運用ルールの見直し

※ 事前通知の例外(無予告可)は、証拠隠滅のおそれなど通達で具体例示されています。

調査官とのやり取りで注意すべき点

税務調査では、調査官とのやり取り一つでその後の対応が大きく変わります。特に「録音」「拒否」「立会い」に関しては注意が必要です。

まず録音についてですが、納税者本人として同席している場面であれば、会話を録音すること自体は原則的に認められるケースが多いとされています。

実際に録音しておけば、後々「言った・言わない」のトラブルを防げるという点で有効です。ただし、無断で第三者の会話まで録音してしまったり、機器の設置方法に不自然さがあると不要な不信感を招くこともあるため、常識的な配慮は欠かせません。

次に、調査自体を拒否できるのかという点です。税務調査は原則「任意調査」であるため、全面的に拒否することは可能といえば可能ですが、実際には調査官の対応を硬化させ、より厳しい調査に発展してしまうリスクがあります。

どうしても都合がつかない場合には、通達でも認められているように、日程や場所の変更を相談するのが現実的で安全な対応です。

さらに、税理士に立ち会ってもらうことには大きなメリットがあります。税理士が同席することで、調査官の質問の意図を正しく整理し、必要な資料の範囲や提出方法を的確に判断できます。

交渉の場面でも、プロとしての相場観をもとに不要な追徴を避ける助けとなります。

修正申告や追徴課税になる場合

調査の結果、誤りが見つかれば修正申告を行うことになり、加算税や延滞税が課される場合もあります。

金額は税目や調査対象期間によって大きく異なりますが、たとえば経費の証拠が不十分で否認された場合、その分の税額に加えて加算税が上乗せされる可能性があります。

さらに「更正の請求」や「修正申告」など関連する手続きには時効(原則5年)があるため、いつまで対応できるかも把握しておく必要があります。

いずれにせよ、根拠資料をどれだけ準備できるかで結果は大きく変わります。

税理士を立てるメリットと費用感

税務調査に税理士が関与すると、次のような利点があります。

  • ・事前に論点を整理できるため、調査の実地日数が短縮されやすい。
  • ・提出物や期限の管理を一元化できるため、対応漏れや不備のリスクが減る。
  • ・是認か否認かの判断において、経験に基づいた“相場観”を活用できる。

 

費用は調査規模や対応期間に応じて変わりますが、単なる「調査費用」ではなく「追徴額の圧縮」「将来の再発防止」まで含めて費用対効果を考えると、依頼する価値は十分にあります。

まとめ

領収書がなくても、振込明細・契約類・やり取りなど複数の客観資料で経費性を説明できる場合があります。

事前通知の内容や無予告の例外など、国税庁の通達・FAQに沿って冷静に準備しましょう。

福岡では無申告やデータ活用がキーワード。電子帳簿保存を含め、日々の証跡管理が最大の防御策です。

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